寄稿コラム
社会の文化の変容をとらえたBABY in ME®マーク


小児科医_白木先生お写真

小児科医、鳥取大学名誉教授(元-付属病院長)、聖路加国際大学名誉教授
白木和夫先生

 
1999年当時、画期的だった「BABY in ME」

 「BABY in ME」マークが初めて作られたのは1999年だそうですが、この時期の我が国の文化を考えると画期的なものだったと思います。公共交通機関に老人向けのシルバーシートとして優先席が設けられたのはかなり早く1973年ですが、のちに対象者が身体障碍者、妊婦などに拡張されたものの、お腹がまだ出ていない妊娠初期では座りにくいということから、何らかのマークが考えられたようです。


コミュニケーション手段の変化と日本文化の変化  
   日本の文化は近年、急速な変化を遂げてきましたが、これにはコミュニケーション手段の変化が大きく影響してきているのが明らかです。1980年代初めにワープロ専用機が市販され、引き続いてパソコンが使えるようになり日常生活でも手書きから印字へと変化が起こりました。1990年代に入るとインターネットが始まりコミュニケーションのスピードがぐっと早く、かつ広くなりましたが、市民一般の生活に入り込んで不可欠となったのは2000年代に入ってスマホが出現して広く使われるようになってからでした。



妊娠を知らせながら街を歩くことは考えられなかった時代  
   このようなハード面でのコミュニケーション手段の進歩とともに一般市民の文化を大きく変化させたのは、わが国では2004年に出現したMixiをはじめとするソーシャルメディア、SNSだと思います。それまでの日本では普通の市民が個人としての意見を広く社会に向かって発信したり、自分自身の事情や思いを社会に広く伝えることは、それほど普通ではありませんでした。ですから妊娠したとしても、1999年頃ではその事実をTシャツの胸にあからさまにつけて街を歩くことは普通の感覚では考えられなかったことでしょう。



当時から抵抗なく受け入れられて今日まで

 このような社会のバックグラウンドを考えて改めて「BABY in ME」のマークを見ると、作者の気持ちがよくわかるかと思います。このマークにはどこにも日本語がなく、胸ではなくお腹にハートマークが書かれたアニメの人物の立ち姿と「BABY in ME」の文字だけの可愛らしいマークですが、これだけでさりげなく、その方が妊娠中だと判断できるようになっています。1999年という、まだ人々が妊娠していることを自分からは広く公言しにくかった時代に創られた「BABY in ME」マークは、その時期から抵抗なく受け入れられ今日まで広まってきました。

可愛さとさり気なさでファンをつかむ「BABY in ME」

    7年後の2006年に厚生労働省「健やか親子21」はマタニティーマークを公募、発表し、その後、各方面からいくつかのマタニティーマークが発表されていますが、初めに一人のフリーライターによって造られた「BABY in ME」の可愛さ、さり気なさは多くのファンをつかんでいるようです。